医療従事者による記事

サンタクロースを待つ大人

2021年11月30日

Brotherhood

みなさんには、会いたくても会えない人っていますか?
天国にいった大切なひと・・・青春の1ページを過ごした仲間・・・分かり合えぬまますれ違っていった人たち・・・
一緒に過ごした頃に思いを馳せてみると、その温もりに触れたくて時空を超えて会いに行けたらなんていう思いが浮かびませんか?

私にも、いくら会いたいと切望しても叶わぬ人がいます。
私は、大学生の頃に児童養護施設にて非常勤職員として働いていました。仕事内容は、グループホームでの宿直業務で、子ども達が幼稚園や学校から帰ってきたら、食事や風呂の準備、寝かしつけなどのお手伝いをしていました。

私が担当していた児童の中に、Kくん(仮名)という当時5歳の男の子がいました。
施設への入所経緯は、実親による身体的虐待(殴る・熱湯をかけられる等の暴力を受けていた)とネグレクト(親が育児放棄し、健全に成長をするために必要な食事や教育を与えられていなかった)を受けたことにより保護されました。

とても素直で可愛らしい子で、どこか遠くを見つめる寂しげな横顔が印象的でした。
大学生だった私は、教育らしいことなど何もできていませんでしたが、目いっぱい一緒に遊び、宿題をやったりして楽しく過ごしました。

ある晩、私が夜勤入りするとき、Kくんが「あいっ!」と言って、クシャクシャになったティッシュを渡してきました。

「これはなぁに?」と言いながら開けてみると、中には小さなクッキーが2つ入っていました。
当日の日勤職員によると、オヤツに出たお菓子を私のために残しておいてくれたというのです。
本当は全部食べたかったはずなのに・・・しかも毎日出るわけでもないオヤツをわざわざ残しておいてくれたなんて・・・
小さな手に握られた優しさは、どんな高級なお菓子にも代えられない味わい深さでした。

Kくんが、小学校に入学する春が近付いてきたある日、里親さんに引き取られていきました。
どんな里親さんに引き取られたかも知りませんし、その後、どうなったかを知ることもありません。
被虐待児であったKくんの身の安全のためにも里親情報は極秘扱いですし、職員だからといって興味本位で調べるものでもありません。名前は知っていますが、里親先で養子縁組をした場合には姓も変わっているかもしれません。

どんな里親さんに育ててもらっているかな?
実のご両親に会いたいという思いが溢れ、辛い思いをしてないかな?
聞きたいことはたくさんあるけど、ただただ笑顔でいることを心から願っています。
身勝手な大人や不公平な社会に負けず、どうか幸せを掴んでいてほしいです。

そうそう、サンタクロースが来ることを信じて心を躍らせながら一緒に過ごしたクリスマスの夜、奇跡を信じることを教えてくれましたね。
あの夜、大人になると見えてくる世界もあれば、見えなくなってしまうものもあることに気付かされました。
いつしか私は、この目で見ることができ、手で触れられるものしか信じずに生きてきたのだな・・・と。
サンタクロースの存在を否定することが大人になることなら、奇跡を信じずに現実しか見ないのが大人になるということなのでしょうか。それが大人というなら、私は子どものままで良いのかななんて思いました。

この世の中には、現実や科学をも凌駕することだってたくさん存在します。
多くの人が流動するこの広い世界の中で出会えたという奇跡は、温かな思い出だけでなく確かな希望までも与えてくれます。
私もそんな奇跡を信じつつ仕事に励みますね。Kくんからもらったものを大切にしながら仕事を果たすことで、Kくんと繋がれていると感じることができますから。

イラスト:中村益己


Brotherhood

この記事はBrotherhoodが執筆しました。
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